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第29回:OSSはどうなの?

今回はOpen Source Software(以下OSS)について、お話しをさせて頂きます。

OSSとは、あえて単純に言ってしまえば、ソフトウェアのソースコードを無償で公開し、誰でもそのソフトウェアの改良、再配布が行えるようになっているソフトウェアです。

私たちの世代(30代半ば)が社会人としてIT/ICT業界に入った時は、既にOSSが企業などのITインフラの重要な部分に導入されている、あるいは移行を考えている企業が増加している社会状況だったと記憶しています。
企業内研修でもLinuxに関する研修も行われていましたし、私もOSS開発の思想や仕組みに触れた時にとてつもない可能性を感じました。
余談ですが、OSSのような様々な人や企業による開発手法は、後にヘンリー・チェスブロウらによって提唱されたオープンイノベーションという思想に繋がっていきます。

少し歴史を振り返ると、OSSの最も代表的なOSであるLinuxは1990年代から開発が始まっていますし、FreeBSD、Solarisなども同時期に初版が出ています。OSだけでなくWebサーバソフトウェアのApacheも初リリースは1995年であり、1990年代は正にOSSの創成期と言えると思います。そんな状況の中、2000年には日本政府よりe-Japan戦略が発表され、日本でのICT投資が加速していく事になります。弊社IBCもその後2002年に創業しました。

ここで運用・監視ツールとしてのOSSに話を移します。

監視ツールも2000年~2005年の間に創成期を迎えます。代表的なものとしてはCacti、Nagios、Zabbix、Hinemosなどがあります。
同時期にスタートしているのは先に挙げた1990年代のOSS創成期を経て、監視ツールにもその開発手法が広く取り入れられたためだと考えられます。
その後、それらのOSSは年々様々な機能を実装していき、現在では仮想環境の監視まで出来るものもあります。
弊社も2003年にはBTmonitorという監視ツールを開発し、運用・監視ツールとコンサルティングを合わせた現在のビジネスモデルの基礎を作り上げました。その後機能を拡充し、現在はSystem Answer G2を提供しています。そのため弊社の歴史とOSSの歴史は密接に関連していると言えます。

しかし、実際の運用面で考えた場合、OSSのみでシステム全体を監視するのは非常に難しいと感じています。これは大規模な運用部隊を持っている企業でも容易ではありません。
実際に色々な現場を回らせて頂くと、ツールの設定や仕組み、更には使い方に至るまで属人化しているという声を聞くことがあります。他には使い勝手が悪く、管理も面倒なのでメンテナンスしていないという声も聞かれます。
こうなってしまっては、安定運用・安定稼働のために監視ツールを導入したはずなのに、そのツールに振り回されて目的が達成出来なくなってしまいます。

こういった状況に陥るのは、多くの場合”無料である”という点と、”ツールの機能”にばかり目がいっているからだと私は考えています。

無料であるという事で飛びついた場合、問題になるのはその後のサポートです。サポートは各ツールのCommunityサイトで情報を検索するか質問するという手法が一般的ですが、ほとんどが英語サイトで日本人には障壁が高い上、必ずしも運用者にとって使い勝手が良いものになっていません。それは、そもそもそのサイトの原点が開発にあるためであり、運用者を意識して作られたものではないからだと思われます。もちろん見やすい解説を載せているツールもありますので一概には言えませんが、日本のシステム運用者が一度は苦労する最も典型的なパターンではないでしょうか。

「この機能もある、あの機能もある、しかも無料」こういった発想で導入を決められた方々が苦労する状況の多くが、ツール活用の属人化です。
OSSは確かに開発スピードも早く、多くの機能が実装されています。ただし、その機能を使おうとすると設定や作り込みが煩雑になってくるケースがあります。
そうなってくると、「この設定はAさんしかできない」、「うまく動かない原因がわからない」、「使い方がわからない」、最終的には「Aさんしかツールを見ない」という状況になってしまうのではないでしょうか。

私は、運用監視ツールはコミュニケーションツールであるべきだと考えています。現場の人間とマネージャーとを繋ぐツール、保守部門と構築部門を繋ぐツール、IT投資の意思決定のためのツールです。そのためには、使用できない人を極力減らす必要がありますし、同じものを見てコミュニケーションを図れるものでなくてはなりません。つまりAさんだけが操作できて、他の人が関心を無くしている状況は理想的とは言えません。
あえて厳しい事を言うなら、OSS導入を決定した企業はそのノウハウを組織全体の知識にするという事にコミットする必要があると考えています。言い換えるなら、活用と知識の体系化まで責任を持つ必要があるという事です。
この部分が抜けてしまうと、運用の属人化というリスクを企業が負うという事になってしまいます。

私はOSS導入時に考えるべき重要な事は何が出来るかではなく、「何をするか」だと考えています。
運用として何をする必要があるのか、死活監視だけなのか、性能監視が必要なのか。
そしてその運用のフローや枠組みはどうするのか。
ノウハウの蓄積はどのようにして行うのか。
これらが整理されて初めてOSSが運用に耐え得るツールになるのではないかと考えています。

冒頭書きました通り、私はOSSの可能性に期待する一人です。また一方で、有償の運用監視ツールを開発・販売する企業の一員です。そのため今回のテーマは非常に難しいテーマでしたが、私の経験を元にあくまで個人的な考えを中心に書かせて頂きました。
重要な点は、有償版と無償版にはそれぞれにメリット・デメリットがあると理解した上で効果的に利用していく事だと思います。実際に弊社でもお客様の状況に応じてOSSと弊社のツールを組み合わせた提案を行う事もありますし、そういったツールの組み合わせも含めて、運用に耐えられる形を検討する事が必要だと考えています。監視ツール導入の際は、是非このような点に留意して頂ければと思います。

最後になりましたが、本コラムが今後のシステム運用の一助になれば幸いです。

by 技術部技術課 橋本 和也

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